僕は生成AIが怖いです。それは、今の自分の仕事は取って代わられると思っているからです。

これまで、僕は仕事をしていて、最終的には「自分の仕事が減る、もしくはなくなる。」ことを目指してやるようにしていました。それは、しばらく取り組んでいると新しいことをやりたくなるという僕の習性に由来します。そこで、仕事の内容を最適化したり、やり方を変えることで結果として仕事がなくなる方向になればいいなと思っていました。まあ、なくならなかったとしても、一区切りついて標準化・自動化されたり形を変えて人に引き継げる状態になり、新しいことに移っていきます。

そうやって24年ほど、ソフトウェアエンジニアとして生きてきました。

しかし、生成AIが登場して、状況が変わりました。生成AIによって、ソフトウェアエンジニアの人はコードを書く行為が大きく変わったことをほぼ全ての人が実感しているはずです。ソフトウェアエンジニアばかりではなく、全ての人が生成AIによって業務・生活のあり方が変わっていることを実感していると思います。

僕も例外なく、生成AIを使いながらさまざまな事柄を変えている最中です。その結果、今までと違うのは仕事の最適化や変化を通じて、単に新しい仕事にシフトすることはできなくなるはずです。なぜなら、そこにはかつてのソフトウェアエンジニアリングをはじめとした、これまでの延長線上の仕事はなくなっているからです。そこに強い危機感を感じています。それが「仕事は取って代わられる」に繋がっています。

もう少し言うと、40代中頃の僕は、引退までの間に、社会で生きていく上で技術の変化からは逃げきれません。

外部環境

海外の企業では、経営状態が悪くないのにも関わらず、生成AIの活用に伴ってレイオフが進んでいることが、僕自身の危機感を高めています。たとえば、Microsoft では「Microsoft to cut up to 9,000 more jobs as it invests in AI – BBC(2025/07/02)」の記事にあるように、生成AIの投資に伴って、管理職を含めた9,000人(全社員の4%)を削減するというものです。生成AIを活用すれば、一部業務で規模の最適化を進められるという経営判断が行われている例と言えるでしょう。

また、世界経済フォーラムに「The Future of Jobs Report 2025」という22業種・55経済圏・1,000社・1,400万人をベースにした世界的大規模調査をもとにしたレポートがあります。この中で、「技術の変化」「グリーントランジッション(再生可能エネルギー移行や脱炭素投資を指すそうです)」「地政学的な分断」「経済の不確実性」そして「人口動態の変化」という5つのマクロトレンドが、雇用とスキルにどのような影響を与えるかを明らかにしています。

第3章の「Skills Outlook」を読むと、2030年までにコアスキルの39%(日本は34%と比較的穏やか)が変化すること、求められるスキルとして上から順に「AIとビッグデータ」「ネットワークとサイバーセキュリティ」「技術のリテラシー」「創造的思考」そして「回復力、柔軟性と敏捷性」が続きます。AIやデータは言わずもかな、基盤となる技術と知識、そして変化に対応できるスキルが求められていると読めそうです。

戻って、第2章「Jobs Outlook」を読むと興味深いことが書いてあります。農家が今後5年で約3,500万人増える見込みだそうで、背景に食料の安全保障とグリーントランジッションによる牽引があるそうです。

そして、第4章「Workforce Strategies」の pp.63 には次の記述があります。

a significant share (41%) also expect to downsize their workforce as AI capabilities to replicate roles expand.

抄訳: 多くの企業(41%)では、AIが役割を代替する能力が拡大するにつれて、従業員数を削減することも想定しています。

現実に「仕事が取って代わられる」検討はこのレポート作成のために行われた調査の段階ですでに進んでいることがわかります。

※この「The Future of Jobs Report 2025」を読み進めるだけで感想文の記事が1本書けそうなくらい大作なので、よかったら読んでみてください。

少し深掘りしてみたい

僕は今、ソフトウェアエンジニアリング組織の部長をやっています。そのため、ソフトウェア開発そのものからは距離が置かれ、意思決定や方針策定、そしてチームメイトのマネジメントに軸足が移りました。

そうした中で、生成AIを使ってやりやすくなったことがあります。

  • プロトタイピング: 試しにプログラムを書く時に、文法を思い出したり、既存構造を理解しなおす時間を大きく短縮しながら、動くものを作れるようになりました。
  • 調査: Deep Research などを使えば、調べ物をするときの作業時間が大幅に削減できます。
  • 壁打ち: アイディアを育てたり、別の観点から推敲する際に人の力を借りずにできます。
  • 翻訳: 特に日本語→英語に翻訳するとき、自分の能力を超えない範囲で翻訳するコントロールが効きます。
  • 画像生成: 絵が描けないので助かります。自分にできないことさえやってもらえます。

言い換えれば、今まで時間を捻り出して夜なべしたり、他の誰かに頼んでいた事柄が、無理なく自分自身でやりやすい環境が生まれています。人に伝えて仕事をお願いしようとすると、どうしてもどこかでうまく伝わらないことがあります。また、うまく伝えられたとしても相手にその仕事を請けてもらえる状況ばかりでもありません。その際、生成AIに頼めば、自分で時間をかけずに取り組む事柄が増えてきました。

さて、この先、生成AIの性能があがっていくと、より多くの知識や経験を扱えるようになり、意思決定や方針策定にも積極的に活用されることは間違いありません。また、これまでの自動化や標準化を経ても残っていた定期定型業務も続々生成AIに置き換わっていくことでしょう。結果、先のレイオフの記事の通り、組織サイズは大きい必要はありません。そうなると、次に生成AIに置き換えられるのは自分です。

しかし人として勉強を続ける必要がある

最近、こんなことがありました。

僕が、ある人に手土産を持っていく必要が出ました。その時に、手土産に関する最適なプロンプトを生成AIに投げようとしたのですが、どうもしっくりしたものが出てきません。そこで、秘書をしている僕のパートナーがプロンプトを考えてくれて生成AIに投げると、あら不思議、出てくる回答がまるで違います。的を射ています。同じ ChatGPT o3 のモデルであってもです。また、回答の中から手土産を渡す相手に対してさらに最適なものとは何かも、最後はうちの相方が提案してくれました。

逆に、パートナーがプログラミングのことについて生成AIに尋ねてコードを書こうとした時に、僕と同じパフォーマンスで書けるかと言うと、少なくとも今はまだそうではないと思います。

ここからわかることは、プロンプトを駆使するにあたっても自分の知見以上のことはできない、ということです。そのためには、自分自身の基礎を固める知識や経験は引き続き学び続ける必要がある、また自分とは違う優れた能力を持つもの同士でチームを組むことで組織力が高まることは変わらない、と理解しています。

しかし自分が今後何をすれば良いかはわからない

自分の今の仕事がそのまま続くことはなさそうだと言うことと、生成AIとやりとりするための基礎知識、そして組織人としての自分や他者の価値の重要性がわかってきました。正直、自分の恐怖心を明確化するためにこの文章を書き続けていると言っても過言ではありません。

ただ、明日、自分が何をすると良いのかは、まだ全然わかりません。いや、今まではっきり自分の道はこちらだと理解できたことはなかったのですが、今回は経験や連続的な変化が通用しなくなる瞬間がすぐそこまできている点で今までと違うことはわかります。少なくとも、3年後に自分が今と同じ仕事をしている可能性は低そうです。変わってなかったら、それは変化についていけなかったとなり、厳しい結果になるでしょう。