僕は日々関心を持ったことがあると、仕事や私生活関係なく、そのことについて書かれている調査や論文をあたるようにしています。読むのはやや時間がかかることがありますが、なぜそうなっているのかまで深く掘り下げられ、そして仕事や生活をより円滑かつ効果的に進められることもでき大変有益です。

せっかくなら、大学院のゼミのようにメモをまとめてブログとかに書き置くと自分や他の人にも有益なのではと思い、「ひとりゼミ」と称してブログを書いてみることにしました。今後も気が向いたら書いていくつもりです。

今回は、2017年9月に出された「高速道路における適正な車両間隔に関する調査研究 – 公益財団法人高速道路調査会 道路・交通工学研究部会 / 高速道路における適正な車両間隔に関する調査研究委員会」 (サマリー報告書本文)です。以下、本調査とします。図は特記がない限り本調査の報告書からの引用です。

今北産業

まずは、今北産業形式で本調査についてまとめます。

  • 本調査は、高速道路での追突事故を減らすかについて言及している。
  • 車間は2秒間隔で走る。これ以上大きくても小さくてもあまり良くない。
  • 混雑した追越車線は走行車線に比べ車間が詰まっており、渋滞や追突事故が発生しやすい傾向がある。

本調査は、1,2章でモティベーションが、3,4章で実態を、5章以降で提案がまとめられています。

本調査を取り上げた理由

先のブログ記事でほぼ毎週スキーに行っていると書きました。これは、ほぼ毎週高速道路を走っているとも同義になります。その際、追突事故渋滞や自然渋滞に遭遇することがままあるのですが、大体起きているのが「追越車線」です。また、何もなくても遅い車を追い越す時に追越車線に入ると、正直殺気立った雰囲気があるのも感じました。これ、なんで起きているのかなと知りたいと思って、調べたところ本調査を見つけたのでした。これを、一般ドライバーの観点で読み進めていきます。

第2章: 適正な車両間隔の検討の必要性

第1章はAbstractなので飛ばします。本資料を読み解く方は読むようにしてください。

高速道路の事故は類別に見ると69%は追突事故、法令違反別に見えると67%が追突事故につながりやすいものが占められているそうです。ドライバーは追突事故を避けられる運転をするのが、高速道路を安全に運転する大切な事項であることがわかります。

さて、皆さんは教習所の学科で「100km/hなら100m車間を取る」と習ったと思いますが、実態はそうではないことを体感でもご存知だと思いますし、この調査でもその点が言及されています。次章でここが深掘りされます。「車間時間」がキーワードになります。

第3章: 車両間隔の実態と割り込みの影響

この章がハイライトです。車間がどれだけ詰まっているか、そしてなぜ車間が詰まるのかです。

まず、以下の図3-1は、混雑時の平均車頭時間(車の頭と頭の距離)です。追越車線が詰め気味なのがわかります。

実際のところどうなのでしょうか。6車線の計測が行われている関越道 花園ICを普通の日曜日午後(2022年4月24日 15時ごろ)に走っている時のオンボーディング画像を見てみましょう。走行車線に比べて、追越車線の車間が詰まり気味ですね。なお、一番左は長い合流車線なので走行車線とはまた違います。

続いて、「ショックウェーブ」に言及があります。ショックウェーブとは、混雑時に前の車が減速したのが数珠繋ぎに減速していき、それが渋滞に変わっていくものです。この動画の説明がわかりやすいです。先の花園ICの先もそうですが、関越道の渋滞の名所は勾配変化をきっかけにしてショックウェーブが起き、それが渋滞に繋がっているようです。また、車両間隔が詰まっているとショックウェーブが起きやすく、渋滞発生や追突事故のリスクが高まるとあります。

つづいて、なぜ車間が詰まるのかです。それは「割り込まれるから」という調査結果と検証結果があります。検証では、図3-8の通り、車間を2秒半作っているケースと、3秒と先ほどより広げたケースがあり、広げた方が割り込みは2倍、いわゆる「ヒヤリハット」の経験も多くなる傾向があります。また、広げた方が「走りにくい」「疲れが大きい」とも出ています。割込みについては第5章でも述べられています。

第4章: 車両間隔の確認方法と交通規則への取り込み

では、どうやって車間距離を取るのか、また諸外国ではどうなのかがまとめられています。

車間の計測方式として「目測方式」と「時間カウント方式」があります。目測方式は高速道路を走っているとある「0m,50m,100m」の標識などを活用する方法です。その標識があれば即時に判断できるメリットがある一方、奥行きの知覚は錯覚が起きたり速度によって適正な距離が違うことがわからない点がデメリットとされています。時間カウント方式は、速度に関わらずカウントできることや特別な標識が必要ない(何か目印があればそこから数えれば良い)メリットがある一方、慣れないうちは秒の数え方が人によって差が出がちというデメリットがあります。本調査ではこの後は時間カウント方式が推されています。一方で、日本ではまだまた目測方式が一般的であることも述べられています。

諸外国では時間カウント方式が一般的であり、本調査の調べでは2秒ルールがほとんどのようです。ここから、教則で学ぶ内容と乖離していること、乖離は法規を軽視させることになりかねないと述べていて、実態を踏まえた車両間隔の推奨を促しています。

第6章でさらに運用に関する議論があります。

第5章: 運転者の行動要件を踏まえた車両間隔

ここまでの議論をまとめて、車間が2秒であることを推奨しているものになります。

混雑時には車間時間約 2 秒、 混雑していなければ車間時間 2 秒以上、減速度が一般の乗用車より小さい大型車などの運転者に対しては車間時間 3 秒以上の確保を推奨する。

また、後続車との車間距離約 30m または車間時間約 2 秒で、追突されない程度に安全な進路変更ができるとあります。ここからも、2秒間隔の重さが理解できます。

相対的な速度差が 10~30km/h(ただし、 走行車は 40km/h、後続車は 50~70km/h)の場合、運転者が追越車線の後続車に追突 されずに車線変更できると判断した最小の車間距離は、20 歳代で 14~18m、60 歳代で 24~32mだった

また、高齢者や初心者についてはより余裕を持った感覚が必要とも述べられています。

第6章: 車両間隔の確認方法の検討

2秒の車間をドライバーがどうやって測るのか、運用方法の議論があります。「これまで存在する手法(e.g. 埼玉県警・警視庁が推奨している 0・1・0・2と唱える, JAFでも言及)」「語呂合わせ」そして「曲目を用いる(要は歌う ♩=120で4/4なら1小節)」方法が提案されています。

第7章: 啓発の要項

ここからはドライバーに対する啓発方法の提案、すなわちここまでのまとめになります。

ドライバーが意識することは、先にも出た「2秒の車間」「交通法規の遵守」そして「キープレフト(左側車線走行の励行)」です。さらに「居眠り運転防止」「先読み運転」「割り込みの留意」そして「渋滞最後尾の追突の警戒」があります。

あと、僕は積極的に利用していますが、ACC(Adaptive Cruse Control, 追走走行できる定速運転)を活用することで、2秒ルールをはじめとした先の問題点の多くを自動車のソフトウェアでサポートしてもらう方法です。過信は禁物ですが、安全性の向上、そして疲労しにくくなるなどのポイントがあります。

第8章: 今後の展望

第7章の続きといってもいい章です。先の章でも言及があったACCですが、図8-3によるとメーカーによって挙動が違うそうで、特に車間の取り方に差があります。これは覚えておいた方がよくて、僕も普段乗っているカローラツーリングでは広い・中間・狭いの中で狭いは使わないようにしています。

最後に、自動車から適正な車間をフィードバックする装置があると良いのでは、という提案があります。非常ブレーキやACCを積んでいる車であれば技術的に可能なはずで、LCDメーターで表示内容を切り替えられて情報量を変えることができるので、客観的に示すツールとしてあるといいかもしれませんね。

感想とこれを受けて

本調査を読んでから、以前にもまして積極的に高速道路は左側の走行車線を走行するようになりました。車間が詰まり気味で緊張感が高くなる追越車線は追い越し時は以外は避けるのはもちろん、片側3車線の場合は真ん中の走行車線は左右に気を配る必要があるので遅い車が前にいる時以外はこれまた避けています。実際、こう走ることで疲れにくいですし、ACCで追走しておけばさらに疲れにくく、速度の上下も減るので燃費も良いです(高速は18km/Lを上回ることがほとんど)。

また、関越道を走ると「走行車線の利用を」の標識をはじめ、様々な改善に取り組まれていますが、これはこういった調査の賜物なんだなってのを知ることもできます。

そうそう、早朝の空いている高速は最高なので、ピークをずらすのが一番安全と僕は思います。それでは皆様、ご安全に。

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