僕がチャットが嫌いな理由 そしてVoiceLinkを好きになった理由

僕がチャットが嫌いな理由 そしてVoiceLinkを好きになった理由

■僕はチャットが嫌い

僕は1997年に初めてインターネットに接続してこのかた、チャットが嫌いです。誰と話すのが嫌、という事ではなくチャットで話すのが嫌なのです。

  • 時間を問わず遠慮なく話しかけられるから。
  • 文字情報だと、感情や意図を的確に伝える/受け取るのが難しいから。
  • 記録に残るから。
  • 顕名のようにみえるが素性がわからない。

というのが、理由です。対象となるのは、古くはWebチャット, ICQ, Yahoo! Messenger, IRC, IP Messenger, そしてSkypeでしょうか。ただ、Skype は音声通話をするためのメディアとしても使えるため、その用途に限っては使い続けています。

インターネット上のコミュニケーションでは、文字ベースで行う事が最もコストがかからないことが普及に至る要因の一つなのだとは思います。また、僕の周囲にいるWeb開発に携わる知人は積極的に使っている事でより「普及」しているように感じているところが、悩ましい所です。

とはいえ、インターネット上には幸いに他にもコミュニケーションのためのメディアがあります。

■ソーシャルメディアはどうか

ソーシャルメディアと言えば、 mixi に始まり、今は twitter や Facebook です。僕は基本的にソーシャルメディアが好きで、よく使っています。

  • 時間の拘束性から解放される。
  • 文字ベースではあるけど、特定の誰かに発言する事に縛られない。
  • 記録に残るけど、それは自分のための記録。
  • 顕名かどうかはメディアによるが、過去ログ等から基本は誰かはわかっている。

ソーシャルメディアは、コミュニケーションのためのメディアであるのと同時に、自分自身のためのメディアでもあります。というのも、ソーシャルメディア上に何かを書き込む行為は、コミュニケーション以外の事を目的としている場合が往々にあります。そうです、今の自分の記録を取る行為です。どこにいるとか、何をしているとか、どういう気持ちなのか、等です。 Lifelog という言葉を使っている人もいますが、まさにそういうことです。

ただ、最近は twitter は見てはいますがあまり書き込まなくなりました。というのも、たくさんの人に見られている事がマイナスの方向に働き、思いもしない…それも主張したい部分とは大きく外れた批判を受けたり、僕自身も人に見せて本当にいいのかという会話を繰り広げることがあり、その反省を踏まえてとなります。ですので、メインを Facebook へシフトしています。こちらは友人関係のある人のみにコメントを公開することで、より「人を見る・見られる」ことを意識した襟を正したコミュニケーションが出来るからというのが理由です。また、 twitter 以上に文を打てるため、文字ベースでやり取りする際の意識の齟齬を少しでも和らげる事が出来ます。

とはいえ、文字ベースでやり取りしていることには代わりありません。

■インターネットのメディアを少し離れて…

僕はインターネットを始める前は、アマチュア無線をしていました。中学生の頃に2級(※1)を取ったくらいなので、その入れ込み具合は想像いただけるかと思います。

僕がアマチュア無線がとても好きだった理由は、こう言う所にありました。

  • 実はあまり時間に拘束されない。その時につながった人と話せばよい。
  • 声でやり取りしているので、感情が伝わってくる(※2)。今振り返って思うと。
  • 記録は基本として残らない。ただ、会話は交信している人以外にも聞こえており、記憶に残る。
  • 顕名である。コールサインは個人特定可能かつ総務省が管理している世界で一意のIDである。

インターネット時代のソーシャルメディアと決定的に違うのは、声でやり取りしていた事でした。文字と違って、同じ情報を伝えるにしても声を使う事で情報量が飛躍的に多くする事が出来ました。文字では、喜怒哀楽を伝える事は難しいのですが、声ならとても容易です。楽しい話も、叱られた事も、思い出として心に残す事が出来ます。人には感情が必ずあります。そのやり取りを通じてお互いを知る事が出来るのではないでしょうか。あと、速報性も高いです。

これは、これだけメールやソーシャルメディアが普及した中で、携帯電話の機能として電話の通話が無くならない事がよい例なのではと思います。

ただ、アマチュア無線には最大の問題点がありました。電波が届かないと、通信が出来なかったのです。ですから、電波状況が良い日のみつながるような人もいました。風情はありますが、メディアとしては不完全です。

■そして登場した声を使ったインターネットメディア

僕が最近よく使うインターネットメディアがあります。それは、 VoiceLink です。声でコミュニケーションする、インターネットメディアがようやく出てきました。スクリーンショットをどうぞ。

スクリーンショット(2012-02-04 0.44.50)

VoiceLink の原点は、板倉さんがむかーし昔、1984年に体験した「NTT 世田谷局 ケーブル火災」にあります。受話器をあげると普段つながらない人たちの声が聞こえてきたんだそうです(詳細は「社長失格」pp.8 以降にて/電子版もあります)。でも、僕は板倉さんをはじめとしたSynergy Driveの皆さんが開発したこのサービスにファーストユーザとして招待していただき、初めて使ったその時に思ったのが「あ、これはアマチュア無線の再来だ。」ということでした。

  • あまり時間に拘束されない。その時にログインした人と話せばよい。
  • 声でやり取りしているので、感情が伝わってくる。
  • 記録は基本として残らない(※3)。ただ、会話はログインしていないリスナーにも聞こえており、記憶に残る。
  • 顕名である。本サービス開始時はクレジットカード認証時に本人を特定する。

比較してみても、ほら、アマチュア無線とそっくり。さらに、アマチュア無線でできなかった参加者の「視覚化」も出来るようになりました。それも、とってもインタラクティブに。まだまだ開発途中とのことですが、今の段階でできる面白い事は「”いいね!”は時間軸に対応している」「参加者本人に”いいね!”が出来る」そして「席を自由に移れる」ことです。

僕はアマチュア無線が好きでした。でも、免許が必要だし、電波を発することはものすごくコストがかかって大変でした。でも、 VoiceLink なら、今、手元にある Mac ですぐに参加する事が出来ます。仕事と大学院はありますが、レポートを早く終わらせて何とか時間を作って1週間に1回は参加するのが、僕の楽しみになっています(※4)。

■キーボードを打つという事はリテラシーを高く求められる

キーボードを打てるようになるまでに、皆さんどのくらい時間をかけましたか?ブラインドタッチ、できますか?僕はコンピュータエンジニアなので、やれて当然と言われればそれまでかもしれません。でも、みんながみんなコンピュータの専門家であるはずもありません。

では、キーボードを抜きにして文字だけに話を絞ってみましょう。僕は大学院生ですから論文を書くのですが、その中で「論文指導」があります。論理的な文を書くと言うのは、高等教育機関で講義ばかりでなく教授から直接指導を受けることでスキルが身に付くと言う、非常に難しいものであると言う事なのです。さらに、文筆家をはじめとした文字を通じて演出をする人の能力はこれとは比較にならず、努力や能力を超えて一部の人が天から授けられるセンスの領域に達しています。

ましてや、世界を見るとキーボードどころか識字率が日本程高くない国はごまんとあります(See also: 「統計局ホームページ/世界の統計 第15章 教育・文化」)。こう考えて行くと、文字ベースのコミュニケーションと言うのは難しく、それなりの教育を受けた人が初めて到達できる領域なのです。

そんな中、人がコミュニケーションをするときに使う最も原始的かつ知的な方法が、声によるコミュニケーションです。 VoiceLink は、そういったキーボード、はては文章を書くリテラシを高くは求められず、一方で人とコミュニケーションしたいと言う動機をより単純に用いる事が出来る、今までインターネットにあまり存在しなかったメディアです。文字を書くのが得意ではなくとも、面白い人・尊敬できる人はたくさんいます。そう言う人が、インターネット上で活躍できるようになったら、また新しい世界が開けるのではと僕は想像します。

そして、人の感情を織り込んだコミュニケーションが僕は好きです。とてもシンプルなやりとりで、ガンガンと脳みそがうごめく。そして、お互いの紐帯ができあがる。大げさかもしれませんが、人として生きることを実感し意識できます。

僕はコンピュータエンジニアエンジニアを10年やってきました。いかに、コンピュータを人に使ってもらう事に対して、自分の目線ばかりで考えてきてしまっていたのか、それに気づかされました。僕には、まだまだやらなくてはならない事がありそうです。

■除外したこと

掲示板はコミュニケーションのツールとして10年以上前はよく用いられてきましたが、最近は僕の中ではそうでもなくなったので、除外しました。

ブログもコミュニケーションのメディアだろうと言う意見が出るはずです。でも、スパムなどでコメント欄やトラックバック欄が荒れる事も少なくなく、閉じてしまう人も出てきました。また、日本では日記としての用途も少なくありません。従って、コミュニケーションと言うよりは発信主体のメディアというのが僕の理解なので、除外しました。

※1: 2級を取得すると、国際通信用を含めた全てのアマチュア無線の周波数が扱え、出力もヘタな放送局よりも大きな200Wを扱う事が出来ます。4, 3級に比べて自由度がぐっと広くなるのです。

※2: モールス(CW)やRTTY、パケット通信は除きます。でも、モールスだと打つペースが変わってそれはそれで伝わるものがありました。

※3: 今後、録音機能がつくので、記録に残す事が可能となるというアナウンスが流れています。

※4: 昔、アマチュア無線をしすぎて学校の成績がえらく悪くなった事があるので、今度はそうならないようにやる事はちゃんとやるようにしてから、と決めました。

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