SLに乗りたくなった

SL。高度経済成長期に主力を退き、今では時々イベント列車として走る程度。もちろん走っている姿を見た事はなく、埼玉の鉄道博物館で静態保存されているものを見た事をあるくらい。

しかし、深夜にうとうとしながらNHKの『昭和のSL映像館』(※1)を見ていたところ、ああいっぺん乗りに行けるのなら乗りに行こうと思い立つに至ったのであります。そこで、どうも定期でSLを動かしているところがあると聞き、この前の日曜日に出向く事にしたのです。

静岡は意外に遠かった

朝7時に家を出て、向かった先は大井川鐵道の起点、金谷駅。東海道新幹線で静岡まで行き、さらに東海道線で30分かけて金谷駅へ。ここまで2時間45分。時間的には名古屋に行くより実は遠いのであります。

で、事前に予約をした急行券と往復の乗車券を受け取り、早速列車に乗るのであります。

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この週末は臨時便を含めて3往復のSLが走ることになっていますが、僕が乗るのは1番列車。しかし、すでに予約は一杯。そして7両も客車がつながるという盛況ぶり。

えらく明るいおばちゃん車掌さんのガイドと共に、金谷駅を静かに出発し始めました。都心の山手線のような高加減速な電車に乗っていると、このもっさりっぷりは新鮮でさえあります。

川沿いをぐんぐん進む

隣の新金谷駅でぎょうさんの団体を乗せると、席はほぼ埋まりいよいよ本格的にSLの旅が始まります。

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静岡ならではのお茶畑、そして大井川を横目に、ぐんぐんSLが進んでいきます。この客車は旧型のため窓も開き、走っているなーという感覚を気持ちよく感じる事ができます。ただ、トンネルに入るときは閉めませんと煙たいんですね。ええ。

そして、SLと言えば汽笛。

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この汽笛、クラクションやメロディーフォンとは違う、とても感傷的な音がします。そして、川の対岸に反響することで、よりその深みが増すという…。これは先ほどの放送やビデオではまずわからない感動がありますので、ぜひお乗りいただき聞いていただきたい。もちろん、窓を開けてね。

また、車内では車掌さんのちょっとしたパフォーマンスや、SL車内ならではの車内販売があります。こちらはチビッコにも人気みたいです。

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そうしている間に、汽車は千頭駅へ到着。でも、これで終わりではありません。

この先もあるんだよ

大井川鐵道はSLだけではありません。なんと、その先の渓谷へつながる小さな列車があります。ただ、乗車まで1時間弱の間があったので、列車の交換作業見学やお弁当を食べる時間としてのんびり過ごしていました。最初は乗換えが長いから退屈かもと思っていましたが、逆に長いほうがいいくらいでした。

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この交換作業、結構大変そうです。電車なら反対側の運転席に移って終わりですが、SLはそうもいきませんよね。前と後ろを入れ替えなければ、進めませんからね。

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これが次に乗る列車です。通常使われているボックスシートの客車のほかに、繁忙期にしかつながらないトロッコ列車のような車両がついてまして、僕は車掌さんの勧めで後者の車両へ乗る事にしました。立ち上がると頭がぶつかるくらいの大きさです。ええ、ぶつけましたともwww

渓谷を進むチビッコ列車

このチビッコ列車が走る南アルプスあぷとライン(井川線)は、もともとダム建設のための貨物専用路線だったそうですが、現在は温泉地や紅葉を楽しむための観光路線として活躍しているとの説明がありました。確かにあまり人が住んでいそうな雰囲気がない場所ですが、人はたくさん乗っておりこれまた盛況です。

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不思議と手を振りたくなるんですかね。さっきのSLも、手を振る方が非常に多く、印象的でした。そして、先ほど以上にのんびりと進みます。

そしてこのチビッコ鉄道、ただチビッコなのではなく日本唯一のアプト式鉄道でもあります。一駅だけ、急坂を登るために歯車がついた機関車に押されて登ります。

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ドンだけきついかと言いますと…

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いやー、これは普通に登るのでも大変ですね。

で、僕は時間の関係で奥大井湖上駅で下車。ここはダム湖のど真ん中にある不思議な駅です。ダム湖に沈んだ事になっている旧線を見ながら休憩できます。

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周りは紅葉も始まっていて、うまい空気と共に季節を大井に楽しむ事ができます。時間がある方は、散策道を歩いていくのもいいかもしれませんね。

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15分もしないうちに帰りの列車がやってきました。来た道を、また同じようなのんびりとしたペースで下っていくのでありました。

ここは走る鉄道の博物館

千頭駅で乗換えをしますが、その先に待っていたのはなつかしの近鉄特急の電車です。

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ほかにも、南海の高野山を登っていた電車も現役で動いています。昔乗ったなー、橋本に近づく前に列車の切り離しがあって、この電車にギューギュー詰めにされるのであります。今は橋本まで複線になったので、そういうこともなくなりました。

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SL、アプト式のチビッコ列車、そして古い電車といい、ここはまるで走る鉄道の博物館です。ただ古いのではなく、クラシックカーを駆るような魅力を感じます。

そして、所属している電車の魅力ばかりはありません。スタッフの方も非常に意識が高く、小さい子に対するサービス(※2)や列車そのものの魅力を高めようと様々な施策を打たれています。その結果が、観光路線として魅力的な、乗車率の高い列車という結果になっているのではと思います。

SLの運転は伝統芸能の域である

SLの運転席を見ますと、これは運転席ではなく機械室ではないかと思ってしまいます。

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2人1組で運転するとはいえ、電車とは比べ物にならない並々ならぬ労力と集中力を要求される運転と思われます。石炭をくべ、様々なバルブの開け閉めを行いながら、安全を維持しつつ高速で運転するのであります。

また、メンテナンスも半端ないはずです。電車のように、故障したユニットの交換でほいほい修理と言うわけにはいきません。SLのその機構が無言で、しかし力強く訴えてきます。動態復元作業の特集番組を見た事がありますが、それはまるで国宝の復元作業。

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この技術を現代に伝えるというのは私たちの想像も及ばないくらい大変な世界であるはずです。もはや列車運転の伝統芸能といっても過言ではないのでしょうか。そして、これを維持できている大井川鐵道の経営努力というのはすごいものだなと感じずにはいられません。

古さが強み

古い列車を動かす事を強みにさえしている、走る鉄道の博物館 大井川鐵道。列車が動くリアリズムを、SLを通じてぜひ感じてみてください。

Flickr sets: 大井川鐵道, 2009

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※備考 大井川鉄道のSL、僕が見た限りだとディフレクターがはずされており、その姿がよくわかります。

※1 向井実さん初めとした方がコメントしながらフィルムを流す特番もありました。最初に見たのはこの番組。

※2 例として、車掌さんが小さい子に制帽を貸して記念撮影を撮る手伝いをしていたりします。それも、列車交換の合間などにです。ほかの鉄道では先ず考えられないサービスですね。