5月6日、ゴールデンウィーク最終日に、東京都 墨田区立 緑小学校で行われている放課後教室「みどりっ子クラブ」にお邪魔してきました。今回は、その中で催されている「Viscuit」教室を催されている勝沼さんのもとへお伺いし、教室で取り組まれている様子を拝見するためにやってきました。
■みどりっ子クラブとは
「得意なことや興味のあることを大いに伸ばし、苦手なことにも進んで挑戦する心」を育む事を目的に創設されました。週休5日制となった際、土曜日の有効活用を行うことがきっかけとのことです。また、文科省の「放課後子ども教室推進事業」のモデル校の一つとしても参加されています。先生役は、「引退された先生方」(※1)「地域の皆さん」そして「保護者」の方が担当されるという、地域密着型の運営をされています。
開講している内容は、ドッヂボール等のスポーツはもちろん、工作等の創作活動、学校の計算機室でプログラミングを楽しむViscuit教室もあります。なかなか多様な放課後教室であります。
■この日の様子
先生の勝沼さんと、小学校低学年の子 2人(男女それぞれ1人)がVisucuitによるプログラミングに取り組まれていました。平日の放課後ですと常時10人以上いるそうですが、さすがに連休という事もあり、この日は出席者が少なかったようです。
まずは、男の子が作っていた、深海の絵。みんなで絵を書くと、先生が映し出しているプロジェクタに全員分の絵が映し出されます。コリジョン判定(Viscuitでは「ワイルドカード」といいます)等をつけたりすると、更に面白くなるんですよ〜
女の子は、UFOキャッチャーを作っていました。ちゃんと吊り上げると、「やったー!」というメッセージが表示されます。丁寧にプログラミングされていました。
僕ですか?僕は、この教室で初めてプログラミングをする子たちが取り組む練習問題を解いた…いや、一緒にいた女の子に教わりながら取り組んだ後、男の子がやっていた深海の生物づくりに励んでいました。おっと、そこのあなた、「斎藤さん、小学生と一緒ですね〜」って言ったでしょう(笑)。一緒どころから、彼らの方が上手ですってば :-p
でも、ここで驚くのはまだ早いのです。僕は、最後にものすごく印象的な出来事に遭遇したのです。
■シンボルとインタラクションがここにあった
最後に、勝沼さんから「チームで、新1年生向けにViscuit教室の紹介をViscuitでつくろう!(※2)」という課題が出されました。早速、2人でコンセプトの設計が始まりました。一方、勝沼さんはぎりぎりまでファシリテーションには入らず、僕はニコニコしながら見守るだけです。
僕はここですごいなと思ったのが、その開発プロセスでした。男の子がコーディングしながら、女の子に「これすごいだろー!どうだー!」と言いつつ、女の子がきれいに「ここ、不自然だからこうしたほうがいいよー」とツッコミを入れつつ、説明の完成度を上げていくのでした。まるで、スタートアップの会社がWebサービスを開発している時のように、完成品という「シンボル」を通じて、関係者同士が「インタラクション」をして開発して行く姿が、ここにあったのです。
そう、僕がソフトウェア開発者育成で重要視している「ソフトウェア開発に必要な「コミュニケーション」は 成果物をもとにインタラクションを行うこと」が、自然と、そして積極的に行われていたのです。
小学生の頃、ドッヂボールでローカルルールを作られたりした方、いらっしゃるかと思います。その時に、みんなで話し合いませんでしたか?シチュエーションを想定しながら、よりよいゲームになるよう働きかけませんでした?まさにそれと同じ事を、 Viscuit を通じたソフトウェア開発で行っているのです。遊びと一緒なんですよ。
こんなに単純な事なのに、大人になると忘れてしまうのですね。
■勝沼さんたちの想い
帰り道、勝沼さんと途中までご一緒させていただきました。みどりっ子クラブの興り、運営の苦労、そして今後の取組についてお話を伺いました。その想いは、この1つのツイートに凝縮されているように思います。
@koemu みどりっ子のビスケットは、はらっぱの遊びみたいにしたいと思っています。土管が秘密基地になったり広場が深海に変わったり…。友だちと大勢で遊ぶのもいいし、一人で作っても良いけど、別々の事をしててもみんなが関わってるそういう場所。プログラミングだからこそできる遊び方。
— かつぬまなおみ (@maianao) May 6, 2013
確かにコードで世界を変える事はできます。ただ、それを一人でやるのと、みんなでやるのとでは、そのスケールが変わってくるのは容易に想像できます。一方、ソフトウェア開発チーム運営の問題は尽きません。そこに、みどりっ子クラブの子たちはとてもストレートな事例を僕に示してくれたのだと思っています。このことは、プログラミングに限らず、人生を通じて大切な経験となって行くのではと信じています。
また、ここまで熱意を持って取り組まれている地域組織は、他に類を見ません。勝沼さんの活動内容は、子供会の幹事役のようなもの。そして、周囲…行政さえも巻き込んでより活発に運営されている旗振り役です。こうやって地域コミュニティが活発になっている事例も非常に興味深い事ではないでしょうか。
■プログラミング教育のまた一つの形
ここ数年、初等教育におけるプログラミング教育が動き始めているように感じます。先日も取り上げた TENTO をはじめ、サーベイするといくつか出てきます。今回は放課後教室、それも子供会のようなスタイルで運営されている事例でした。多分、どの方法も良い結果を生むと信じています。
そして、今の僕ができる事は、まずは皆さんの活動を知り、若い彼ら・彼女らにプログラミングの楽しさを伝え、そして研究成果に活かす事だと考えています。
みどりっ子クラブの生徒の皆さん、墨田区立 緑小学校の先生方、そして勝沼さん、この度はお世話になりました。また、祭日にお伺いします。ありがとうございました。
※1: 立ち上げ時、引退された先生方の力に支えていただいた、との事でした。
※2: Viscuitには動く紙芝居を作るモードがあります