本当に新幹線は必要ですか?-長崎新幹線を思う

本当に新幹線は必要ですか?-長崎新幹線を思う

東京に帰ってきました。
先日、長崎に行って(『長崎へ行く-まるで空中に浮かぶ都市』のエントリをご覧ください)きて、印象に残ったもののひとつに『九州新幹線 西九州ルート(長崎新幹線)』があります。
武雄温泉から諫早の間に新しい路線を作り、スーパー特急またはフリーゲージトレインを走らせて所要時間を短縮しよう、というのがその概要のようです。そして、あわよくば、まもなく開通する九州新幹線 鹿児島ルート(2011年に全通予定)に新鳥栖あたりでつないで速達性を高めよう、という話のようです。詳しくは
■長崎県: 九州新幹線西九州ルート(長崎ルート)
■佐賀県: 九州新幹線西九州ルートホームページ
をご覧ください。

ちなみに、僕は「作るのは強く見直したほうがいい」というポジションでお話します。

なんでまた新幹線という話が出ているかというと、在来線(長崎本線)の肥前鹿島?諫早の間はJRの電車の中でもハイパワー・ハイパフォーマンス(※0)を誇る特急かもめ(885系)でものろのろ走らなければならない隘路です。


885系 特急かもめ(長崎)・SONIC(大分)
[ 1/250sec / F5.6 / 28mm / ISO 100 /
EF 28mm F2.8 ]

この区間は海岸線を走る隘路です
[ 1/40sec / F4.0 / 28mm / ISO 100 /
EF 28mm F2.8 ]

そのため、博多?長崎の所要時間は走る距離の割りに約1時間50分(電車・時間帯によって違う)かかっています。
高速バスが約2時間10分の所要時間だということを考えると、思ったより速くありません。
そこに、隘路をバイパスすべく新路線を作ろう、という話が出ているのです。

さて、隘路の程度が長崎よりひどかった九州新幹線 鹿児島ルートはどうだったか、データを出してみます。
こちらの博多?鹿児島中央(旧 西鹿児島)の所要時間は、
・在来線: 約3時間50分
・現状(一部開通): 約2時間10分
・全通後(2011年予定): 1時間20分の予定
※便によって前後します
とのことです。


九州新幹線 つばめ
[ 1/60sec / F2.8 / 28mm / ISO Auto /
Canon IXY Digital 60 ]

先行開通している新八代?鹿児島中央の効果は、なんと1時間40分以上の短縮、博多?西鹿児島間の割合だと56%の効果が出ています。絶対的な所要時間の短縮、ならびに相対的な短縮の割合、どちらから考えても速くなっていると考えることができると思います。
また、鹿児島からは宮崎にも線路が通じているため、宮崎から博多へ行く時間も短くすることができます。言い換えれば、鹿児島県民ばかりではなく宮崎県民にも恩恵がもたらされているともいえるのです。
そして、乗客予想数の達成(ソース『九州新幹線つばめ、1000万人突破 – 九州ニュース : nikkansports.com』)や経済波及効果も165億円出ている(ソース『KER-九州新幹線開業による経済効果について』)とあります。
ただ、総工費は全通まで約1.4兆円かかっています(ソース『九州新幹線開業』など)。

効果は出ていて、かつ予想を上回っていたとしても、元を取るのがどれだけ大変かというデータが、すでに出ています。
もちろん、公共事業ですから鉄道単体であっという間に黒字、ということではなくトータルで考えるべきなのかもしれません。
博多から約4時間かかるところが約1.5時間で来られるようになれば、福岡県という九州の中心と経済的により緊密につながれるわけです。1.5時間の移動と4時間の移動は体力的にだいぶ違うというのは、出張慣れしている方には感覚的に理解いただけると思います。僕も経験者なのでよくわかります(※1)。

さて、長崎へ向かう九州新幹線 西九州ルート。
まず、時間の短縮は『九州新幹線 西九州ルート(長崎ルート) |効果|時間短縮効果』によると、武雄温泉?諫早開通段階で最大でも21分。
たった21分のために、それも博多から2時間かからない場所に、380十億円かけようとしているのです。長崎線単体でも31十億円拠出するのだとか。
さらに『九州新幹線 西九州ルート(長崎ルート)|最近の報道等で取り上げられた意見や疑問の声にお答えします』によると、線形改良で11分の短縮ができる、という話も出ているそうです。
そして、長崎の観光資源のひとつである五島列島は地続きではありません。これが、鹿児島の指宿や霧島と決定的に違うところです。また、島々それぞれが長崎全体の魅力でもあります(※2)。

この総工費380十億円あれば、もっと別の観点で長崎県自体の経済活性化のための行動に移せるのではないでしょうか。
鉄道交通についても、九州新幹線 鹿児島ルートが全通すると鹿児島本線のキャパシティが時間当たり2本余裕が出ますから、ここにかもめを増発することで人の流動度を高める施策を打つことだって可能です。
ちなみに、885系 かもめは1編成で約10億円(Wikipedia情報なので多分)だそうです。そう考えると、長崎県拠出分の31十億円もあれば20分ヘッドで走らせて、さらに隘路の線形改良するための原資にあてることもできるはずです。
すなわち、人が流れ込みやすいきっかけを増やせば、それだけ活性化するためのきっかけができるはず、ということなのです。もともと距離も近いのだから鹿児島より低額にきっかけがつかみやすい長崎はある意味ラッキーなのです。反対側の大分は、特急SONICでがんばってるじゃないですか。

結局誰のための新幹線なのか。
僕が見えない引力が働いているのでしょう。
けど、そういうことをしていればいつか日本は借金まみれでぶっつぶれますよ。
長崎の新幹線だけじゃない、広く見て採算があまりに取れない、すなわち広い意味で投資にならない公共事業をやり続けたら、みんなが借金に悲鳴を上げるのです。

国は未来のために『投資』してほしい……そう僕は願います。

※追伸1
長崎県の人から「東京の人間が何を言う!」と言われるかもしれん。
でも、僕は九州が好きやけん、そげん言うのです。
建設工事以外でも九州は発展できるし、実際、新しいことに挑戦して地域貢献しようとしている人を僕は見てきた。
そして、みんなが知る人に東国原 宮崎県知事がいらっしゃる。誠心誠意、つくしとろう!?
だからわざわざ書いたとよ。

※追伸2
この記事を書いていて、僕は九州の経済のために何かできることはないかな、と初めて思った。
案はまだない。

※0
885系は速度種別A68(上り勾配10‰で168Km/h出せる)というパフォーマンスを持っています。
だから平坦な区間はものすごくきびきび走ります。
しかし、鹿児島本線は終日混んでいて、普通電車から特急までよく遅延しています。これは隠れた問題かもしれません。

※1
以前勤めていた会社は広島でしたが、ここに行くまで新幹線の乗車時間は約3時間40分。
僕の実家の福岡は飛行機で約1時間30(季節によって前後)です。そう、福岡のほうが時間的に近いのです。
費用的な面でも、航空機の割引運賃を使えば福岡のほうがなんと安いときもあるくらいです。時間の距離と費用の距離は移動の上でとても重要なパラメーターです。
旅なら、ちょっと違いますけどね。

※2
新幹線の効果の範囲に佐世保や武雄温泉に寄れる/経由できるという話を出しています。
だけど、長崎の魅力は、僕は五島にあるような気がする。武雄温泉もいいところやけどね。

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