■野球のピッチャーがフォームを変えるとき

野球のピッチャーには、各々個性的な投球フォームがあります。その人の戦い方そのものが、フォームに出ると僕は考えています。

一方、ピッチャーが勝てなくなった時、どうするか。その時、投球フォームを変える・変わることがあります。環境が変わる…例えば日本のプロ野球からメジャーリーグに移籍したり(例:ダルビッシュ有選手など)、先発から中継ぎなどの役割の変化(例:藤川選手など)が思いつきます。または、自分自身を研究し尽くされて勝てなくなったことが理由かもしれません。

いずれにしても、環境が変わることに起因することは間違いありません。

■当然 仕事にもフォームがある

当然、仕事にもフォームがあります。野球の投球フォームほど目に見えるものではありませんが、僕はこれをいわば仕事のフォームとして日々やってきました。

  • スピードの追及
  • 数字へのコミット
  • 結果を出す

いかにも、IT系企業にいる人って感じでしょう?

まず、スピードは競合他社に戦わずして勝つために常に先駆者であることを重んじます。次に、数字ですが目標は常に定量化し客観的に評価することで、説明責任を果たしやすくし、感情で判断することをできる限り許さない環境を作りを心がけます。そして、結果を出すということは、決めたゴールに対し真摯に取り組むことを常に意識づける意味があります。

■しかし環境が変わった

今の会社に来て、僕はフォームを変えることを明確に求められました。

  • スピードよりも正確さを求める
  • 数字を気にするより業務を覚える
  • 結果の前にチームビルディングを進める

これは、プログラマ中心の世界から、インフラエンジニア中心の世界に移ったきたからでしょうか?いえ、それは違うと断言します。

まず、正確さを求める。インターネットインフラに直接かかわる仕事は、ミスは許されないことは言うまでもありません。それ以上に、ミスをしないことは手戻りがそれだけ減ります。手戻りをしないようにするためには、その場の注意深さもさることながら、事前の調査や計画、そして事後の確認の徹底も必要です。そして、この結果は形式知として組織の中に残り、ほかの人にも伝えることもできます。とはいえ、話は分かるのですがなかなかもどかしいものがあります。

続いて、業務を覚える、です。数字をないがしろにしろ、というわけではありません。その前に、業務を覚えなければ戦力以前の問題であるといわれているも同然だということです。

最後に、チームビルディング。昔の僕を知っている人だとわかる方もいると思うのですが、結果のために何かを犠牲にしていたことは僕は認めざるを得ません。そしてここに対して忸怩たる思いを僕に持つ人がいることも理解しています。今後は、そうではなく、粘り強くお互いが理解できるまでコミュニケーションを続けよう、そしてチームを作り上げることで組織の力を底上げしましょう、ということです。

僕が勤めている会社は、インターネットインフラを支えるMSP(Management Service Provider)業界ではご存知の方が少なくないはずです。そして、どんな結果を出しているかもわかっているはず。それをさらに推し進めるために、今、自分がやるべきことはこれなのです。

もう一つ言います。僕がこれまでやってきたことは、否定はされていません。でも、変える必要があるのです。

■なぜ移ることに決めたかをまずは見つめなおす

この状況は非常にもどかしい。投球フォームを変えはじめると、これまでのようにストライクが入らなくて苦しむピッチャーのように、担当する業務一つ一つがスムーズにいかなくなり苦しくなります。こんなはずじゃないと感じずにはいられません。

そこで、ここに来たいという志が何だったかを思い出します…

僕は、華のIT企業らしく、ドーン!と大きなものを打ち上げる(=結果を出す)ことに快感がありました。しかし、そんなのは長くは続かなかったのです。今までの環境は人の出入りが激しく、それは3年もいれば人が入れ替わったのでは感じるほどです。こうなると、組織の中に知識が残りづらくなりますし、またチームビルディングが負担になりおろそかになることもしばしありました。さらに、新卒の子も来ることがなく、世代をつなぐことも難しいものとなっていました。

僕は、これでは長くお客様に価値を提供するのは無理だと悟ったのです。だから、今度は長く勤められる環境で、少なくとも自分の知識・知恵が組織のものに定着し、組織としてお客様に価値を提供し続けられるよう努めたいと考えたのです。その志には、しっかりと準拠しています。

いいじゃない、それで。と思う方もいるでしょう。いや、もう論理的には全くその通りです。しかし、僕の中には脊髄反射可能な水準までこれまでのフォームが染みついているのです。だから、今の環境で求められるフォームに改造する過程で、これまでのフォームとは「違う」という意識的・無意識の抵抗が出てしまうのです。

これは、今まで経験したことがない苦しみです。

■代表は言う

5月末が決算日でしたので、6月1日から新しい期に入ります。新しい期を迎えるに当たり、代表(社内ではそのように呼ばれております)がtwitterでこのようなコメントを書いていました。

これは、組織全体の行動規範となっています。すごくシンプルなメッセージです。しかし、僕のこれまでの記事を読んでいただいたらわかるかたもいるかもしれませんが、非常に奥深いメッセージなのです。この境地に至ることは容易ではありません。そして、僕に求められていることとすべて合致します。

フォームが変わるまで…どのくらい時間がかかるか想像もつきませんが…どうか、時間をもらえないか。はじめて、時間がほしいと願うようになりました。

僕の投球フォーム改造は、始まったばかりであります。