世界最大の自転車ロードレース「ツール・ド・フランス」(Tour de France, 以下ツール)。2014年は、ニバリ選手の総合優勝で幕を閉じました。フルーム選手やコンタドール選手が次々とケガで棄権する中、特に後半は素晴らしい走りを見せていたことに、新しい勝者の登場を感じずにはいられませんでした。
さて、自転車が好きな方なら、人生に一度でいいから、ツールを観に行きたい!と思われるのではないでしょうか。ええ、僕も自転車通勤をはじめた2008年からずっとそう思って来たのです。
ということで…
来ちゃいました!
2014年の第2ステージ スタート地点のYork(ヨーク)です。本当にやってきたんですよ!!YorkってEnglandじゃないかと言われそうなのですが、今年の初戦〜3日間はEnglandで開催されることになったのです。あと、他にも用事があったのでEnglandで観る事にした背景もあります。ここまで、日本からほぼ丸1日かかりました。この写真は現地時間21時頃に撮ったのですが、緯度が高く夏なためまだ日が沈んでおりません。
今回は、スタート地点のYorkを拠点に、時間が許せばゴール地点のSheffield(シェッフィールド)を目指します。Yorkの町そのものについては、気が向いたら別途書きます(書きました→「イギリス訪問記 – York探訪編」)。
ツール・ド・フランスがわが町にやってきた!
ツールが自分の町にやってくる事はとても喜ばしい事なのだそうで、フランスでは町をあげて歓迎するのだとか。海を挟んだ隣国EnglandのYorkもその例に漏れない歓迎っぷりです。
建物のほぼすべてにツールを歓迎する飾りが施してあります。Boots(イギリスのドラッグストアチェーン)のロゴまでツール仕様です(笑)。
お世話になったB&B “Crescent Guest House“さん(Bed & Breakfast, 日本で言う民宿)でも、親父に開口一番「ツール観に来たの?そりゃいい!うちの目の前も走るしね〜」という話に。地元のおじさん・おばさんでさえ当たり前のように歓迎しているこのムード、最高ですね。ただ、続いて「さっきカヴェンディッシュが転倒したよ…」って聞いた時にはびっくりしました(※1)。
スタート地点ではパレードを楽しもう
先ほどもお話ししましたが、YorkではB&Bのある通りの目の前がコースに設定されています。そのため、朝食を食べた後すぐに観戦に向かう事ができる、素晴らしい立地です。観戦とは申しましても、リアルスタート前のパレード走行の区間ですので、選手たちを暖かく歓迎する形になります。以下の写真は、現地時間 朝6時にB&Bの玄関からコースを眺めた様子です。
Yorkに来る前に調べてわかったのですが、ツールではレース2時間前からスポンサーのパレードがあるのです。ここではツール観戦中おなじみのスポンサーの車両が次々と40km/h程度の速度で通過して行きます。その時に、ノベルティを撒いて行くんですね。大人はマナーよくいただいちゃいましょう〜(※2)
朝9時からパレードが始まり、断続的に10:30頃まで続きます。いやー、すごい。本当にすごい。そして、人もすごい。どこの山岳ステージかと思うほどの人の数です。それにしてもおまわりさんは余裕ですね。ハイタッチしてるし。
選手が来るまでの2時間は、パレードの写真を撮ったり、オフィシャルグッズ移動販売車にグッズを買いに行ったり、地元のFMラジオ “BBC York“を聞きながら待っていました。BBC Yorkではツール特番が組まれていまして、リポーターが商店街の人たちに「いやー、楽しみですね!」というノリでインタビューをしていました。こうやって観戦できるのは現地にいるからでありまして、日本でテレビを通じて観戦する事に比べたら贅沢なのかもしれません。
そうしていると、11:10頃に競馬場をスタートした選手の集団がやってきました。
これがツールなのだ、先頭にフルームもいた!と感慨に浸りたくなる所なのですが…彼らは40km/h程度であっという間に通過して行きます。写真なんか撮っている場合ではありません。これはいけません!
通過後、時間に余裕があったので、フィッシュ&チップスを買い列車に乗り込んで、ゴール地点であるSheffieldへ移動を始めました。
ゴール地点では戦いを楽しもう
ツール 2014年 第2ステージは、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ並みの厳しいコース設定でして、獲得標高差は何と3,400mとヘタな山岳ステージ並みです(「獲得標高差3400mのハードな一日 ニーバリが区間とマイヨジョーヌを射止める | cyclowired」より)。そうなりますと、山岳ステージ同様、集団もばらけることが予想されます。当然、観戦もより長く楽しめる可能性が出るのです。
YorkからSheffieldまでは列車で1時間程度。なんと、先回りする事ができるのです。素晴らしいですね。今度こそはカメラを降ろしてじっくり観戦することにしました。僕らは、最後の急坂Jenkin Roadを越えた後の下り〜残り3kmあたりで観戦する事にしました。市内の移動は、Sheffield駅からSupertram(路面電車)に乗ってスムーズにこなす事ができます。
ここでは、公式アプリで順位と先頭の位置を確認しつつ、BBC Channel 5にラジオを合わせて観戦。70km/hは出ていると思われる速度で、次々と選手が下って行きます。その様子はまさに壮観。ここで、ニバリが劇的なスパートを決めてステージ優勝を飾った事はとても印象的でした。今思えば、総合優勝を予感させる出来事でした。
また、予定通り集団はばらけていまして、Yorkでは逃してしまった観戦チャンスをじっくり堪能する事ができました。特に、選手の体格をしっかり確かめる事ができたのは大きな収穫です。まるで、美術館に展示されている彫刻のようでありました。特に、カンチェラーラ選手のフォームは、獲得標高差3,400mを本当に走ってきたのか?と考えてしまうほど、本当に素晴らしいものです。見とれてしまいます。
また、唯一の日本人選手である新城選手を目にする事もできました。遠い遠いヨーロッパの地で、アシストとして毎年活躍している姿は、本当に素晴らしいし、日本人として嬉しくなります。一方、素人の僕には想像できない苦労、そして喜びがあるのでしょう。ただ、声援を送ろうとしたら間に合わなかった事が少し心残りです。
こうして、僕らのツール観戦は終わりました。混雑がひどくなる前にSupertramに乗り、Sheffield駅でコーヒーを飲みながら休憩しつつ、列車でYorkに戻りました。
これから観に行かれる方へ
アドバイスと言えるほどのことはできないのですが、僕らが留意した4点をお伝えします。
- 観戦してみたい場所をテレビ中継をもとに当たりをつける
- 行きたい場所の交通・宿泊事情を良く確認する
- 移動時間にかなり余裕を持つ
- 町とともに楽しむ
1は、だいたい速度が落ちそうな所、人があまり混み過ぎない所のヤマを張るために調べました。実際、僕らはそれほど混雑には巻き込まれずに無理なく観る事ができました。
2は、慣れない土地に移動するため、どうやって行く事ができるか、頻度等はどうかを調べていました。Yorkは交通事情が良い所(London King’s Crossから列車で2時間程度)であったため、選択しやすいところでした。また、観光地であったため食事や宿の確保も特段の苦労はありませんでした。経路や通過時刻は公式サイトや地元特設サイト等で案内されていますので、よく確認してみてください。
3は、海外旅行全般に言える事ですが、日本のように定時でスムーズに動けるとは思わない方がいいです。計画時は遅れた時の事を考えて1〜2時間のマージンをとって列車の指定席をとっていました。日本からYorkまでは遅れもなくスムーズでしたが、SheffieldからYorkに戻るときは、列車がかなり遅れているのに”On Time”と出ていて、カルチャーショックを受けました。
4は、そうしたほうが僕らは楽しかったです。ステージ開催前後の、ツール開催に賑わう町をじっくり楽しんでみてはいかがでしょうか。観戦地=観光地だとより良いです。実は直前、ある事情でLondon市内観戦をやめてYorkに延泊する事を決めたのですが、結果的にそうしてよかったなと思っています。
正直な感想
いつか生でと思って、とうとう観戦にこぎつけることができた Tour de France。今は夢の中にいるような気分で、現実としての実感があまり沸いてない。
— Yuichiro SAITO (@koemu) July 6, 2014
以上です。
…と言いたい所ですが、ツールが終わった今だから改めて。
「一体」となって観戦するのが、ツール・ド・フランスなのだと感じました。一体とは、生で観戦することを通じて、テレビ中継を観ていてはわからない現地の空気(町・メディア・そして選手本人達)を肌で感じる事です。どのプロスポーツでも基本は一緒でしょうが、特にツールはそこに住む人たちが一体となって祭りとして盛り上げる点がより凄いのです。もちろん、自分自身もそのひとりとなる事ができるのです。
また、観戦する場所によって、体感できる物事がまた違います。今回は街中でしたが、田園地帯なら大自然とともに、山岳ステージならゆっくりと登る選手達をじっくりと応援する事ができるでしょう。BBCの中継では、山の中でテントを張って当日を待っている人たちの模様も伝えられていました。これほど多様な観戦ができるプロスポーツも、珍しいのではないでしょうか。
ここまで、いつかと夢見たツール・ド・フランス観戦について、現地の模様をまじえた観戦記としてまとめてみました。訪ねた町と一体となって楽しめる事を、少しでもお伝えできていたら幸いです。
「皆さんもぜひツールを観に行ってみて!」と言いたいのですが、開催場所がフランスまたはその周辺と、日本から簡単に行く事はできない距離にあります。また、時間も、お金もかかります。だからこそ、観戦できた時の感動は何事にもかえられないものがあるのかもしれません。そして、僕らがその感動を体感できた事は、本当に恵まれていたのだなと実感する、今日この頃でありました。
※イギリス訪問記 一覧
- 写真: England, 2014 – an album on Flickr
- ツール・ド・フランス観戦編 #TDF (この記事)
- York探訪編
- London, Cotswolds探訪編
- 交通・通信事情編
※1: イギリスではウィギンス選手が出られない事への同情と、カヴェンディッシュ選手の転倒を残念がっていた空気がありました。カヴェンディッシュ選手は地元でのゴール前で転倒・リタイアでしたから、本当に辛かったでしょう。
※2: English Gentlemanは確かに存在しまして、こぞってノベルティを取りに行くのは子供だけでした。この事は、イギリス滞在中に終始感心する出来事でした。